民話絵本『きつねのぼっけ』(原画)

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【原文】

きつねのボッケ
絵と文・河野 哲平/題字・鎌内恵

むかし、しおがまのにしまちというところに三右衛門というお百姓が住んでいました。
毎日、畑を荒らされて困っていた三右衛門は
「これはきつねのしわざにちがいない、もうかんべんならん。今夜こそ、きっと、とっつかまえてこらしめてやるぞ。」
と畑の小屋から見はっていました。
そうして夜ふけになると、とつぜん目の前に花よめ行列があらわれました。それはそれはきれいな花よめ行列でした。
三右衛門はしばらくみとれていましたが、
「まてよ。これはきっときつねに化(ば)かされているんだ。」
と思(おも)いました。
「こらー!」
はらのたった三右衛門はくわをふりかざして飛びだしました。すると、花よめ行列はふっと消え、きつねが一匹、おおあわてでにげていきました。
「おや、こりゃなんだ。きつねが何か落としたぞ。」
ひろってみると、きれいなボッケ(注1.)でした。
「こりゃあ、あったかそうだ。」
と三右衛門はそれをかぶって家へ帰りました。
「ばんつぁん(注2.)、ばんつぁん、今かえったど。」
「ずんつぁん(注3.)がぁ。はやがったなぁ。」
ばんつぁんが戸を開けると、そこには花よめさんがたっていました。
「おやどちらさんかね。うちのずんつぁんの声だと思ったけど。」
三右衛門がはっときがついて、ボッケを頭からとると、もとのすがたにもどりました。
「こいつは、おもっしぇものひろったぞ。」
三右衛門はひとりでよろこびました。
三右衛門は馬をかっていました。
そして毎日、日がくれると馬のおしりをあらってあげていました。今夜もいつものように馬のおしりをあらおうとしていると、だれかが戸をたたきます。
—トントントン、トントントンー
「三右衛門や三右衛門、ボッケ返してけろ。」
「だれだぁ。」
三右衛門が聞いてもこたえません。
そして次の晩も
—トントントン、トントントンー
「三右衛門や三右衛門、ボッケ返してけろ。」
「ははあ、さてはあのきつねだな。このやろう、いっつも人の畑あらしやがってなに言(い)うが。ようし、そんなに返してほしがったら、ボッケのかわりになにかめずらしいもんもってこい。」
次の晩、
—トントントンー
「三右衛門や三右衛門、ボッケ返してけろ。」
そういってきつねがもってきたのは、ただのぼうきれでした。
「こんのやろう、こんなぼうきれのどこがめずらしいんだ。人をバカにするもんでねぇ。」
三右衛門はまっかになっておこりました。
するときつねは
「三右衛門や三右衛門、そのぼうばちょっとふってみな。」
と言いました。
三右衛門が言われたとおりにふってみると、それはまぶしく光りました。
「おお、こいづはおもっせぇ。あんべえ(注4)もんだ。」
三右衛門はおおよろこびでボッケとこうかんしました。
三右衛門は家にいそいで帰って、
「ばんつぁん、ばんつぁん、こいつはすごいぞ。」
「いいか、よぉく見てろ。」
じまん気にぼうをふってみせました。
「ほりゃあ」
ところが、不思議なことに十回ふっても百回ふってもぼうはひかりません。
「この、えい。えいっ。」
汗(あせ)びっしょりになるまでふりつづけても、やっぱりぼうはひかりませんでした。
三右衛門は木のぼうをにぎりしめながら、
「きつねのやつにまただまされたぁ…」
とくやしがりました。

[本文注釈]
(注1)ボッケ…直径30cmぐらいのぼうしのような毛のかたまり
(注2)ばんつぁん…おばあさん
(注3)ずんつぁん…おじいさん
(注4)あんべえ…あんばいのいい。具合のいい。

作者・著者:河野 哲平
年代:2000年
出版:塩竈市子どもの心を育てる図書館活動実行委員会
サイズ:302 x 230mm(扉ページ)/ 347 x 190mm(タイトル縦書)/ 135 x 353mm(タイトル横書)/ 302 x 406mm(各頁)
材質・形状:アクリル画、厚紙