民話絵本『木田の大だこ』(原画)

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【原文】

木田の大だこ
絵と文 木口奈美

野ヶ島の毛無囲に木田とよばれる白いすなのきれいなはまがありました。
ずっと昔ここに一ぴきの大だこがいたそうです。
大だこはここを通るふねをひっくり返し乗っている人を海の中に引きずりこんだり夜になると畑の作物をあらしたりしました。
「こまったことだなや。畑のものはあらされっし、魚取りにもでらんねえし、こんでは村はつぶれてしまう。なんとかあの大だこをやっつける工夫はねえがなや。」
「大だこがねぼけているところをやっつけてはどうだろう。」
「うん、それはいいかもなあ。」
村のひとは大だこのねどこを調べておいて、夜にこっそりやっつけることにしました。村の男たちは、夜の海にふねを出し、かがり火で海を真昼のように照らしました。
その明るさにおどろいた大だこは、大波をあげてあばれ出しました。
波にのまれたふねは、つぎつぎとしずんでしまいました。
村の男たちは、ひっしで大だこの足と大波からのがれ、やっとのおもいで村に帰ってくることができました。
「もっと他に、ええ方法はねえべが。」
「大だこのやつは海では大きな顔をしているが、たこは海のいきものだ。陸にあがってきたときは海の中のようにはすばやく動けねえはずだ。そこで夜、畑をあらしに来たところをあみでつかまえるってのはどうだろう。」
「おお、それはええ考えだ。今度こそあの大だこをやっつけることができるだろう。」
村人たちはこんどこそはと畑にわなをしかけて、夜が来るのをまちました。
夜になると、何も知らずに大だこはやってきて、むしゃむしゃ畑の作物をたべはじめました。
「今だっ!あみをかけろっ!」
身をひそめていた村人たちはいっせいに飛び出しました。やはり海の生き物の大だこは、海中ほど速くはうごけません。
みんなはうまく大だこをあみに入れ、とらえることができました。
しかし、大だこはものすごい力であみをひきちぎり、二、三人村人をはね飛ばして、にょろにょろと海ににげてしまいました。
村人たちは何度も相談して大だこをやっつける方法をいろいろとやってみましたがいつも失敗を重ねるだけでした。
ちょうどそのころ酒屋新助という人がこの島に住んでいました。
新助は海にもぐって魚や貝をとるのがとてもじょうずでした。
村人たちは、新助に相談しました。
「新助や、おめえは村一番の、もぐりの名人だ。あの大だこをやっつけるええ工夫はねえべが。なんとかうめえ手を考えてけろや。」
新助は、
「ほだなや、あの化けものだこば、やっつけんには足一本一本、切り取るしかねかんべな。んでえ、おれやってみっぺ。」
といって大だこたいじをひきうけてくれました。
新助が海中にもぐってみると大だこは分銅島ほどもある頭を下にして大きな岩をだいて八本の足をながながとのばしぐっすりねこんでいるようでした。
新助はよく切れる海中刀をぬいて気づかれないようにそっと近づきまず、一本の足を切り落としました。
村人たちが「つりおもり」で引き上げてみるとなんと長さが二十尺(約六メートル)きゅうばんはごはんちゃわんほどもありました。これを見た村人たちはみなこしをぬかすほどおどろきました。
新助は三日がかりで大だこの足を七本まで切り取ることができました。
ところが、最後の八本目の足を切り取るために海にもぐった新助はいつまでたっても水面に上がってきませんでした。
村中は大さわぎとなりみんなで海中いたるところをさがしましたが大だこのすがたも新助のすがたもとうとう見つけることはできませんでした。
大だこがいなくなってから、村には平和がもどりました。
そして新助は、村人の心のなかにいつまでも生きつづけ今も昔話で語りつがれて人々の心のなかでくらしています。

作者・著者:木口奈美(きぐち なみ)
年代:2000年
出版:塩竈市子どもの心を育てる図書館活動実行委員会
サイズ:347 x 242mm(タイトル画)/ 360 x 510mm(各頁)
材質・形状:版画、アクリル画