『はて知らずの記』

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【原文】

汽車鹽竈(しほがま)に達す。取りあへず鹽竈神社に詣づ。敷百級の石階幾千株の老杉足もとひやひやとして己に此世ならぬ心地す。神前に跪き拜し畏りて和泉三郎寄進の鐡燈籠を見る。大半は當時の物なりとぞ、鐡全く錆びて側の大木と共に七百年の昔ありありと眼に集まりたり。

炎天や木の影ひえる石だゝみ

社頭に立ちて見渡す鹽竈の景色山低うして海平かに家屋鱗の如く竝び人馬蟻の如く往來す。鹽燒く煙かと見るは汽車汽船の出入りするなり。歌詠む貴人にやと思ふは日本の名所を洋文の案内書に教へられたる紳士なめり。山水は依然たれども見る人は同じからず。星霜移り換れども古の名歌は猶存す。しばし石壇の上に佇みて昔のみ思ひいでらるゝに

涼しさの猶有り難き昔かな

小舟をやとふて鹽竈の浦を發し松嶋の眞中へと漕ぎ出づ。入海大方干潟になりて鳧の白う処々に下り立ちたる山の綠に副へてただならず。先づ第一に見ゆる小さき嶋こそ籬が嶋にはありけれ。此の嶋別にさせる事もなきも其名の聞えたるは鹽竈に近き故なるべし。波の花もて結へると詠みたるも面白し。

涼しさのこゝを扇のかなめかな

山やうやうに開きて海遠く廣がる。舟より見る嶋々縱に重なり横に続き遠近辨へ難く其敷も亦知り難し。一つと見し嶋の二つになり三つに分れ堅気しと思ひしも忽ちに幅狭く細く尖りたりと眺むる山の次第に圓く平たく成り行くあり。我位置の移るを覺えず海の景色の活きて動くやうにぞ見ゆるなる。

【解説】

明治26年7月、汽車で塩竈を訪れる。塩竈神社に詣でて、当時の海老屋で昼食し、船で松島へ。籬島を詠んだ俳句は、紀行文「はて知らずの記」(明治26年)より。
*籬島の方向に設置

作者・著者:正岡子規(まさおか しき)
年代:1892年
収蔵場所:宮城県塩竈市海岸通 みなと広場「シオーモの小径」

地図


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塩竈市教育委員会生涯学習課  e_edu@city.shiogama.miyagi.jp