民話絵本『どんどんばさばさ ふるげたのおばけ』(原画)

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【原文】

昔、寒風沢島で 起きた お話しです。
子どもたちが 夏休みになった ある夜のこと。
島のどこからか 何とも ふしぎな声が 聞こえてきました。
ふしぎな声は
「鼻いでえ 鼻いでえ」
と、聞こえました。
次の夜も、
その次の夜も、ふしぎな声は 続きました。
島の大人たちは、よるとさわると その話になって気味が悪いと おおさわぎになりました。
なんだべや、おっかねぇごだ。 すばりじぞうさんの ただりでねぇのが? おら、きみわるくて、よるに そどさでんの やんだどわ。やんだごだなぁ、なすてこんなごどに なったんだべ。あんだ、しゃねすか…
島の子どもたちが 大人たちのようすを 見ていました。
「あんちゃん、おんつぁんだぢ 何さわいでんだが、見えっか?」
いがぐり頭の つよしが聞きました。
「ああ、夜中に聞こえる 変な声のごどだ
あの声、おっかねぇって みんなで さわいでんだ」
一番年上の あんちゃんが答えました。
「おれも きいだげど、あんまり おっかねぐねがったど」
たいくつそうにしていた まさが言いました。
「ぼくの おかあも おっかねぇがら 夜に 外さ でんなって」
一番年下の かんたが言いました。
えっちゃんが みんなに ていあんしました。
「ねぇ、ばばっこやに 行ってみない?
あのばっぱだったら 何か 知ってっかもよ」
5人は、ばばっこやに向かって 走り出しました。
ばばっこやは、子どもたちが あめっこ(注1)を買ったり とすけをしたり、日用品を 買ったりする 島の小さなお店です。
ばっぱは、いつも店先に ちょこんと すわっています。
5人は、息を切らせながら
ばっぱに ふしぎな声のことを たずねました。
「ほいづは はまのかみだ」
5人は おたがいの 顔を 見合いました。
ばっぱは、こう言ったのでした。
「おっかねえど思ってんのは、おどなだぢだけっしゃ。
あんだだづは あの声きいでも おっかねぐ ねがったべ?
あの声の 主は はまのかみ なのっしゃ。
よながに、行ってみろ。
なんで ででくっっか わがっから」
5人は、ばっぱの話を聞いて
ふしぎな声がするわけを つきとめることにしました。
5人は、親にないしょで 夜中に 待ち合わせることにしました。
「どごに あづまっぺや?」
つよしが みんなに聞きました。
「すばりじぞうさんとこで いいんでねぇがや? みはらし いいがらや」
まさが 言いました。
「なんか ぶきになるもの もってったほうが いいんでねぇのが?」
かんたが ちょっとこわがっているように聞きました。
えっちゃんが 言いました。
「いらない。だって こわいものじゃ ないんだから」
「おかあだぢに みつかんなよ」
「んでね。」
あんちゃんが そう言うと
子どもたちは それぞれの家に向かって
走りました。
今日も、島には 夜が 近づいてきました。
夜になりました。
島の大人たちは、ふしぎな声がこわくて
頭から ふとんをかぶって 早ばやと ねてしまいました。
5人は 小高い 山のてっぺんの、
島で 一番みはらしのいい すばりじぞうの所で、ふしぎな声が 聞えてくるのを じっと待っていました。
「鼻いでえ」
「鼻いでえ」
はまの方から ふしぎな 声が 聞こえました。
「いくよ!」
えっちゃんの かけごえで みんな いっせいに かけ出しました。
すばりじぞうからの 坂道を 全力で 下りました。
「鼻いでえ」
また、ふしぎな声が 聞こえました。
「もとやしきはま!」
先頭を走っている えっちゃんが みんなに言いました。
もとやしきはまは 島の港の 反対側にある すなはまです。5人は 声のする方に向かって、どんどん 走りました。
「はまのかみ!」
先頭を 走(はし)っていた えっちゃんが、
ついに はまのかみを 見つけました。
はまのかみは、白い けむりのようなものに 包まれて 子どもたちの せたけより ちょっと上のあたりを ただよっていました。
「これでも おみまいすっか?」
そう言って、つよしは パチンコのゴムを
ぎゅうっと 引きました。
「だめ。うっちゃ だめ!」
えっちゃんは、はまのかみのすがたを じっと見つめながら
つよしを 止めました。
「おっかなぐないでしょ」
あんちゃんと まさは
じっと はまのかみを 見つめています。
一番年下のかんたは ちょっと こわそうにしています。
えっちゃんは、
ばっぱに聞いた じゅもんを 唱えました。
「どんどん ばさばさ ばっさばさ。
どんどん ばさばさ ばっさばさ。」
あんちゃんも、つよしも、まさも、かんたも、いっしょに じゅもんを 唱えました。
「どんどん ばさばさ ばっさばさ。
どんどん ばさばさ ばっさばさ。」
「どんどん ばさばさ ばっさばさ」
はまのかみが 5人といっしょに じゅもんを 声にしたとき、
ばさばさ ばっさばさ
という 大きな音とともに はまのかみが 地面に落ちてきました。
5人が 近よってみると、そこには
板のきれっぱし、はなおの取れたぞうり、こわれた曲げわっぱ、かれた竹ざお と 木のえだ、ぼろぼろになった 古いげた、ぼろぼろになった 古いみの が 残っていました。
それは全部 もとやしきはまに 打ち上げられた ごみだったのです。
ごみが あまりにも たくさんあったので、はまのかみが おこって 大人たちに 知らせていたのでした。
寒風沢島には 静かな毎日が もどってきました。

[本文注釈]
(注1)あめっこ…お菓子のあめ玉

作者・著者:米倉雅真(よねくら まさちか)
年代:2001年
出版:塩竈市教育委員会・塩竈市民図書館
サイズ:297 x 420mm
材質・形状:デジタル画